DIGGIN’MAGAZINE SNOWBOARD BRAND BOOK

ARE YOU READY FOR WINTER?

熟達したスノーボーダーに向け、DIGGIN’ MAGAZINEが厳選したスノーボード・ブランドのみを取り上げる「ブランドカタログ」。
それぞれのブランドの個性、バックグラウンド、そして目指している世界を知ることで、ギアの本質が見えてくる。
ギアを知ることで、自分自身のスノーボーディングも成長していく。

スノーボーダーのスノーボーディング・ライフを豊かに。
ギアはただの道具じゃない。人生を通して楽し続けていくための大切なパートナー。
だからこそブランドを知るのです。

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PO1*
http://www.playdesign.jp/

PHOTO BY HIROYUKI YAMADA / WORDS BY IMA / GLI JK_57,000YEN

「なんしか」という大阪弁がある。
意味を探ると「だいたいこんな感じ」というのは出てくるものの、
話し手によっては、もはやただの口癖であって、意味を訊ねてみても、ヒトによって返しもバラバラだったりする。
そして、そもそもその言葉がなくても会話も文脈上でもたいていまったく問題ない、という不思議なワード。
会話上における「遊びの部分」であって、意味づけたりすること自体に意味がない。
「自分らはこう思っている。こういう思いがある。そういう時に使う言葉じゃないですかね?」
ファウンダーの川井龍二は、そう返した。
メッセージこそ抱いていても、定義付けることは不可能。
この大阪発信のブランドは、まさに「そんな感じ」だ。

ヒト・モノの「プロ仕様化」のカレントをよそ目に
あくまで「遊び」のため、を貫くPO1の小宇宙。

2000年代あたりの「LIFESTYLE」という言葉は、空回りしていることが少なくなかった。若いライダーやメディアが頻用したその言葉には、「山ごもりでのライフスタイル」やら「NZステイでのライフスタイル」といったケースも少なくなく、「LIFE」という言葉を使いながらも、「生き方」とは無縁。「これが○○のライフスタイル」とか謳ったところで、わずか数か月後には別のサイクルで生活している、といった事もザラで、軽薄な意味合いと使われ方が多かった。少なくとも、ある程度の分野キャリアがあれば、説得力を一切感じないものばかりが目立った。一方で「ライディングショット」に対して「ライフスタイルショット」と写真を区別することは世界的に通例で、皮肉を込めて、「あー、ライフスタイルって、モノクロで滑ってない時をカッコいい風に撮ればいいんでしょ?」と返すカメラマンも、国内外に少なくなかった。けれども、時代はコアブーム。そういう空気感は、なんら「生き方」とそのスタイルに持続性、継続性が無いにも関わらず重宝され、もてはやされた。

ファウンダーである川井龍二が、シーズン中にフェイスブック上で毎週末、もしくは週明けにアップするスノーボーディングのアーティクル末尾には、「#100パーセントサンデーボーダー」というタグが付いている。あくまで大阪、街基点。

「山のそばに住んでない奴らは本物じゃない」という言葉を残したライダー群がいる。この「ホンモノ」という言葉もけっこう曲者で、その道のストイックを指すコア・ミーティングもある一方で、ヘタクソであってもスノーボーディングの好きさが「ホンモノ」というのは、コアブームの中では、隠れ、また表現するメディアもほとんど存在しなかった。また一方で、「スノーボーディングは遊び」というフレーズにも、実は最低でも2つの意味がある。コンテストとその周囲にある管理体制や数値評価に対するアンチテーゼとしての場合と、そのまんま純然たる「遊び」として使う者。PO1の提示と姿勢は、上記それぞれで後者をずっとキープしている。2001年のスタートから不変のスタンスだ。

昨シーズン、京都のショップ「CHICKENNOT」との別注ラインで上下ホワイトのウエアをリリースした。「真っ白って初めて見た。実際に着て、鏡を見たら変だった。けど周りのウケは良かった(笑)」とライダーの小嶋大輔が言った。岐阜・高山に住むUMA.のこと、上田拓郎は、そのウエアについて、「一瞬目を離しただけで、雪に同化しちゃってどこにいるのか分からなくなる。スプレイ上げなくてもヒトが消えるんですよ。笑っちゃう」と言った。

「ガチ」に対する「肩透かし」をやっているわけでもない。純粋に、自分たちが着たいもの、作りたいもの。派手系、アースカラー系、なんとかをやるなら系と、モノやブランドが定義付けられ、カテゴライズされるものが大半の中、PO1はあくまでPO1であり続けている。

「どこか大きいブランドなりを目標にしていたり、何かになりたいってわけでもない。単純に洋服が好きで、古着からデザイナーズブランドまで見て来て、スノーボードをずっとやって来た。自分たちが通って来たものの中にアイデアとデザインソースがある。生地にしても、海外素材ではなく、日本のファブリックでやりたかった。洋服みたいな風合いの生地のウエアを創りたいんですよね。けれども、それを残すと、今の日本の技術でも雪弾きが強くないんです。東レさんとそこをずっと一緒にやってきてて、だいぶ良くなってきているんですけど」

「もっと遊ぼうや」
ブランドスタートは、バブル崩壊の余波がいよいよ社会に投影された時代。リストラの話題や暗沌とした社会での生き残りに必死な世相に対しての提案でもあった。社会と生活の中での遊びのバランスが見えなくなっていた時代。

「今ってアウトドアに寄って行ったり、ハイスペックを求める流れってあるでしょ?滑り方もモノも、コアにコアにっていう。それはそれで、とっても大切なこと。だけど一般の人にいきなり提示する部分じゃない、というか、それは“いつか辿りつく所”。だけどレジャーすぎてもアレですよね。僕らは、自分の身丈に合ったスノーボーディングをずっと遊んでいるし、そこの中間のバランスが好きなんですよね」ナベさんことPrana Punksの渡辺尚幸も言う。「登山して汗かいて。大雑把な目安として、2000m以上の環境って、もはや“遊び”じゃない。シンプル&タイトなゴアテックス・キャパシティを求めるようなクライマーになれば、ウエアのタグまで全て剥ぎ取るレベルの軽量化が必要になってくる、そこはもう“シリアス”だよね。けれども、それ以下で“遊ぶ“のであれば、”PO1“のウエアはまったく問題ない。もう10年くらいの付き合いだけど、デザインや風合いが関東の感覚と違う所もいいよね。”ここにこんなポケットがあるのか!“っていうような”遊び“がある。スノーボードと一緒だよね。面白さが無いモノは、単純につまらない」

NO PLAY NO LIFE
このブランドメッセージにおける『LIFE』に、どっしりした説得力があるのは、川井の冬のフェイスブックを見れば明らかだ。まず、ファウンダーがその実践者。何かの分野のハイエンド&コアではなく、何かを遊び倒すこと、そして遊びに使うモノのディテイルにまでコアであることの追求と共にある生き方。
「ウエアにうっすら雪が付くのを見て、ライダーたちは言うんですよね。川井君は本当に雪が好きなんだろうね、って(笑)」
渡辺尚幸は言った。

PHOTO BY TADANORI SEGI & UMA.